VASUジャパン株式会社が開発する、牡蠣殻由来の炭酸カルシウムを活用したバイオマスABS樹脂「VS-60-2-B2」。
その開発背景や技術的な特徴、想定用途について解説した記事が、専門誌『強化プラスチックス』2026年7月号に掲載されました。
記事タイトルは「牡蠣殻由来炭酸カルシウムを用いたバイオマスプラスチック」です。

環境への配慮と、実用性能を両立するために
脱炭素化や資源循環への対応が企業に求められるなか、プラスチック材料の選定においても、原料調達から製造、使用、廃棄までを含めた環境負荷を考えることが重要になっています。
環境配慮型プラスチックには、リサイクルプラスチックやバイオマスプラスチックなどの選択肢があります。一方で、品質のばらつき、機械特性、耐熱性、耐久性、成形条件などが導入上の課題になることもあります。
特に家電や産業機器など、長期間使用される製品では、環境性だけでなく、安定した物性や成形加工性も欠かせません。
そこで当社は、「環境負荷の低減と実用的な物性の両立」をコンセプトに、牡蠣殻をバイオマス成分として活用したABS樹脂を開発しました。
廃棄されていた牡蠣殻を、工業材料として再活用
牡蠣の養殖や食品加工では、多くの牡蠣殻が副産物として発生します。その主成分は、工業用途でも広く利用されている炭酸カルシウムです。
しかし、処理コストや用途不足などの理由から、十分に活用されていない牡蠣殻もあります。
当社は、この牡蠣殻を単なる充填材ではなく、「機能を付与するバイオマス成分」として位置付けました。
食品産業から生じる未利用資源を工業材料として再生することで、廃棄物の削減と資源循環の双方に貢献します。
また、新たに鉱物資源を採掘する必要がないことも、牡蠣殻を利用する意義の一つです。
牡蠣殻には白色度が高く、着色しやすいという材料上の特徴もあります。粉砕・加工することで、炭酸カルシウムフィラーとして活用できます。

なぜベース樹脂にABSを選んだのか
ABS樹脂は、耐衝撃性、剛性、加工性、外観品質のバランスに優れた材料です。家電製品の筐体、産業機器のカバー、自動車内装部品など、幅広い用途で使用されています。
長年にわたって設計ノウハウや金型資産が蓄積されているため、代替材料が必要な性能を備えていれば、既存製品への展開を検討しやすいことも利点です。
ABSをバイオマス化することで、包装資材やカトラリーなどのワンウェイ用途だけでなく、家電や産業機器をはじめとする耐久用途へ、バイオマスプラスチックの可能性を広げられると考えました。
独自の表面処理と混練技術で、実用的な物性を追求
ABS樹脂と牡蠣殻由来の無機フィラーを組み合わせる際、大きな課題となるのが両者の接着性です。
フィラーと樹脂の親和性が低い場合、剥離や凝集が起こり、衝撃強度の低下やクラック、成形不良につながる可能性があります。
牡蠣殻粉末を単純に混ぜるだけでは、実用に必要な物性や成形性を安定して得ることは困難です。
当社では牡蠣殻粉末に独自の表面処理を施し、ABS樹脂との相溶性を向上させました。表面エネルギーを制御することで樹脂との密着性を高め、微細で均一な分散状態を実現しています。
さらに、二軸押出機による混練条件を最適化。せん断履歴や滞留時間を制御することで、フィラーの破砕や過度な熱劣化を抑え、実用的な物性と分散安定性の両立を図っています。
目指したのは「実際の製品に使えること」
本材料の設計目標は、バージンABSの性能を超えることではありません。重視したのは、既存用途で問題なく使用できる範囲の実用性能を維持することです。
評価では、引張強度、曲げ弾性率、衝撃強度、熱変形温度などについて、一般的な産業用途を想定した確認を行っています。通常の筐体用途に必要な性能を確保し、多様な試作品でも用途に応じた物性試験を実施してきました。
成形加工についても、溶融粘度や流動特性は従来のABS樹脂と大きく異ならず、条件調整は必要となるものの、既存金型を使用できることを確認しています。
環境性に優れていても、製品として量産できなければ普及にはつながりません。既存の設計や生産設備を活かしながら導入を検討できることが、本材料の重要な特徴です。
家電・産業機器など、耐久用途で試作・評価
これまでに、次のような用途で試作と評価を進めています。
- デスクトップスピーカーの筐体
- ポータブルラジオの筐体
- 換気扇部品
- 産業機器のカバー
- FA装置の外装
- 複合機向け部品
- ヘッドフォン内部部品
こうした用途では、機械特性の安定性に加え、外観品質も重要です。本材料は従来のABS樹脂に近い設計思想で使用できるため、既存製品への採用を具体的に検討できます。


環境への取り組みを、製品の価値へ
牡蠣殻を再利用することで、新たな鉱物資源の投入や採掘工程を抑えられます。また、石油由来樹脂の使用量を削減することで、原料段階における化石資源への依存度を下げる効果も期待できます。
正確な環境効果を判断するには、原料調達、加工、輸送、成形、使用後の処理までを含めたLCAの視点が必要です。当社では、単に「バイオマスだから環境に良い」と訴求するのではなく、用途や供給条件に応じた現実的な環境価値を重視しています。
牡蠣殻由来という分かりやすい背景は、企業の環境方針やSDGs・ESG活動、環境報告における情報発信にも活用できます。材料の置き換えにとどまらず、製品や企業の価値を伝える一つの要素になります。
大切なのは、用途に応じた材料の「最適バランス」
すべての石油由来プラスチックを、一律にバイオマス材やリサイクル材へ置き換えることが、必ずしも最適とは限りません。
安全性、耐久性、外観、コスト、成形性、環境負荷など、製品ごとに求められる条件は異なります。用途に応じてバージン材、リサイクル材、バイオマス材を適切に使い分けることが、現実的な環境対応につながります。
牡蠣殻由来のバイオマスABSは、その「最適バランス」をつくるための新たな選択肢です。
今後は、難燃性や耐候性の向上、バイオマス度の向上、工程改善によるコスト低減を進め、さらに幅広い用途への展開を目指します。
掲載情報
- 掲載誌:『強化プラスチックス』
- 掲載号:2026年7月号
- 記事名:牡蠣殻由来炭酸カルシウムを用いたバイオマスプラスチック