この記事は2025年9月16日にメールマガジンVol. 30として配信されたものです。
初回投稿日: 2025年12月17日
最終更新日: 2026年7月31日
ABS樹脂は、家電製品、自動車部品、電子機器、玩具など、私たちの身の回りにある多くの製品に使用されています。
耐衝撃性、剛性、外観、射出成形性のバランスに優れている一方、一般的なABSの主原料は石油由来です。
そこで近年、石油由来原料の使用割合を抑える選択肢として注目されているのが、バイオマスABSです。
VASUジャパンでは、ABSにバイオマス由来原料を配合し、射出成形品に必要な強度や成形性との両立を目指したコンパウンドをご提案しています。
この記事では、バイオマスABSの特徴、導入時の課題、用途、試作実績について解説します。
バイオマスABSとは
バイオマスABSとは、ABS樹脂に植物や生物由来の原料を配合し、石油由来原料の使用割合を抑えた材料です。
バイオマス原料には、次のようなものがあります。
- セルロース
- スターチ
- 木粉
- 農業副産物
- 食品産業や水産業から発生する未利用資源
一般的なバイオマスABSは、ABSのすべてを植物由来原料へ置き換えたものではありません。
石油由来ABSをベースとして、その一部にバイオマス原料を配合した複合材料です。
また、バイオマス原料を使用していても、通常は生分解性プラスチックではありません。使用後は、一般的なABS製品と同様に適切な回収や処分が必要です。
ABS樹脂の特徴
ABSは、次の三つの成分から構成される熱可塑性樹脂です。
- アクリロニトリル
- ブタジエン
- スチレン
三つの成分を組み合わせることで、耐衝撃性、剛性、成形性、表面外観などのバランスを持たせています。
耐衝撃性に優れる
ABSは、落下や衝突などの力が加わる製品に使用しやすい材料です。
家電製品の外装、電子機器の筐体、玩具、各種カバーなどに広く採用されています。
外観と着色性に優れる
一般的なABSは表面を整えやすく、着色、塗装、印刷などの二次加工にも対応しやすい材料です。
外から見える意匠部品にも多く使用されています。
射出成形に適している
ABSは射出成形に広く利用されており、複雑な形状や量産品にも対応しやすい材料です。
ただし、グレードや製品形状に応じて、乾燥、成形温度、射出速度、保圧などの調整が必要です。
ABS樹脂が使われている製品
ABSは、私たちの身の回りにあるさまざまな製品に使用されています。
家電・電子機器
- テレビやプリンターの外装
- 掃除機の筐体
- 換気扇のカバー
- オーディオ機器のパネル
- ヘッドホンの部品
自動車部品
- 内装パネル
- コンソール部品
- カバー類
- 操作部品
玩具・日用品
- ブロック
- フィギュア
- 模型
- 文房具
- 各種ケースや容器
なぜABSをバイオマス化するのか
現在ABSを使用している製品を、PPやPEなどの別の樹脂へ切り替えると、強度、外観、寸法精度、成形性などが変わる可能性があります。
ABSをベースとしたままバイオマス原料を配合できれば、既存製品の設計や生産方法を大きく変えずに、環境対応材料を検討できる可能性があります。
石油由来原料の使用割合を抑えられる
ABSの一部をバイオマス原料へ置き換えることで、製品に使用する石油由来原料の割合を減らせます。
量産部品では、1個当たりの削減量が小さくても、年間の生産量全体では一定の削減効果が期待できます。
未利用資源を活用できる
農業、林業、食品産業、水産業などから発生する副産物を、材料の一部として活用できる場合があります。
廃棄されていた資源を製品へ利用することで、石油由来原料の削減だけでなく、資源の有効活用にもつながります。
バイオマスABSの課題
ABSへバイオマス原料を配合すれば、自動的に実用的な材料になるわけではありません。
配合する原料の種類や量によって、ABS本来の物性や射出成形性が変化します。
耐衝撃性が低下する場合がある
ABSへ粉体やフィラーを配合すると、耐衝撃性が低下する場合があります。
特に、原料の分散が不十分であったり、粒径が大きかったりすると、破損の起点となる可能性があります。
バイオマス度だけを高めるのではなく、製品に必要な強度とのバランスを取ることが重要です。
流動性が変化する
バイオマス原料を配合すると、溶融した樹脂の流れやすさが変化する場合があります。
流動性が不足すると、
- 薄肉部へ充填できない
- ショートショットが発生する
- ウェルドラインが目立つ
- 射出圧力が高くなる
といった問題につながります。
実際の金型を使用し、製品形状に合った流動性を確認する必要があります。
水分や熱の影響を受けやすい
セルロースやスターチなどの天然由来原料は、水分を吸収しやすい場合があります。
乾燥が不十分な状態で成形すると、気泡、銀条、臭気、強度低下などが発生する可能性があります。
また、成形温度が高すぎたり、シリンダー内に長時間滞留したりすると、変色や熱劣化が発生することもあります。
外観が変化する
バイオマス原料を配合すると、天然素材特有の色、粒、模様などが現れる場合があります。
一般的なABSに近い均一な外観を目指す場合は着色調整が必要ですが、自然な風合いを製品の特徴として生かす方法もあります。
VASUジャパンのバイオマスABS
VASUジャパンでは、ABSへバイオマス由来原料を配合した、射出成形向けコンパウンドをご提案しています。
バイオマス原料の選択肢の一つとして、牡蠣殻由来のシェルパウダーを使用した配合実績があります。
牡蠣殻は、水産業や食品産業から発生する副産物です。
洗浄、乾燥、粉砕、粒度調整などを行い、プラスチックへ配合することで、未利用資源を材料の一部として活用できます。
シェルパウダーを配合しながら物性を調整
シェルパウダーを加えれば、必ず耐衝撃性が向上するわけではありません。
むしろ配合方法によっては、ABS本来の物性が低下する可能性があります。
VASUジャパンでは、
- シェルパウダーの粒径
- 配合量
- ABSのグレード
- 流動性
- 添加剤
- 成形条件
などを調整し、バイオマス原料を配合しながら、製品に必要な性能を満たすことを目指します。
バイオマスABSの試作実績
VASUジャパンでは、バイオマスABSを使用して、実際の製品金型による射出成形試作を行っています。
ヘッドホン内部部品
ヘッドホン内部の射出成形部品で試作を行い、組み立て時や使用時に必要とされる強度を確認しました。
換気扇カバー
比較的大きな換気扇カバーでも成形試作を行い、充填状態、反り、表面外観などを確認しました。
ポータブルラジオのフロントパネル
外から見えるポータブルラジオのフロントパネルでも試作を行い、強度だけでなく、外観や成形状態を評価しました。
これらは、一般的な石油由来ABSより強いことを意味するものではありません。
実際の製品を成形し、それぞれの用途で必要とされた性能を確認した実績です。
射出成形時に確認したいポイント
バイオマスABSを導入する際は、通常のABSと同じ条件で成形できるとは限りません。
特に次の項目を確認します。
予備乾燥
材料に残った水分は、外観不良や強度低下の原因になります。
材料に適した温度と時間で乾燥し、開封後の保管方法も管理します。
成形温度
バイオマス原料は、種類によって熱による変色や劣化が起こる場合があります。
樹脂を十分に流動させながら、過度な加熱や長時間の滞留を避ける必要があります。
ゲートと製品形状
ピンゲート、薄肉部、長い流動距離、細かなリブなどがある場合は、充填性を確認します。
必要に応じて、材料のMFRや成形条件を調整します。
外観と臭気
意匠部品や家電製品では、色、粒、焼け、臭気なども重要な評価項目です。
試験片だけでなく、実際の製品形状で確認することが大切です。
バイオマスABSが向いている用途
バイオマスABSは、現在ABSが使われている製品のうち、次のような用途で検討できます。
- 家電製品のカバーや内部部品
- 電子機器やオーディオ機器の筐体
- 日用品や雑貨
- 各種ケースやパネル
- ノベルティ
- 環境配慮型のオリジナル製品
ただし、難燃性、耐候性、食品接触、電気特性などが求められる場合は、用途ごとの確認が必要です。
バイオマスABS導入の進め方
バイオマスABSは、最初から量産するのではなく、小ロットで試作しながら検討する方法が適しています。
1. 要求性能を整理する
まず、製品に必要な条件を整理します。
- 用途
- 製品形状
- 肉厚
- 必要な強度
- 耐熱性
- 流動性
- 色や外観
- バイオマス度
- 年間使用量
絶対に必要な条件と、調整できる条件を分けることが重要です。
2. 配合を検討する
要求性能に合わせて、ABSのグレード、バイオマス原料、配合量、添加剤などを検討します。
3. 小ロットで射出成形する
試作用コンパウンドを使用し、実際の金型で成形します。
充填性、外観、離型性、寸法、臭気などを確認します。
4. 成形品を評価する
落下試験、衝撃試験、組み立て試験、耐熱試験など、製品に必要な評価を行います。
必要に応じて配合や成形条件を調整し、量産可能な条件へ近づけます。
バイオマスABSとCO2削減
植物由来原料は、植物が成長する過程で大気中のCO2を取り込みます。
そのため、ABSの一部をバイオマス原料へ置き換えることは、化石資源への依存を抑え、再生可能な原料の使用割合を高める取り組みの一つです。
ただし、バイオマス原料を使用すれば、製品のCO2排出量が自動的にゼロになるわけではありません。
原料の回収、加工、輸送、コンパウンド、射出成形、廃棄などにもエネルギーが必要です。
実際の削減効果を示す場合は、製品のライフサイクル全体を対象としたLCAやCFPによる評価が必要です。
まとめ
バイオマスABSは、ABS樹脂にバイオマス由来原料を配合し、石油由来原料の使用割合を抑えた材料です。
ABSの耐衝撃性、外観、射出成形性を生かしながら、環境対応材料を検討できる点に特徴があります。
一方で、バイオマス原料を配合すると、
- 耐衝撃性
- 流動性
- 吸湿性
- 外観
- 臭気
- 成形条件
などが変化する可能性があります。
そのため、バイオマス度だけを追求するのではなく、実際の製品に必要な性能とのバランスを取ることが重要です。
VASUジャパンでは、牡蠣殻由来のシェルパウダーを使用したバイオマスABSの試作実績があります。
ヘッドホン内部部品、換気扇カバー、ポータブルラジオのフロントパネルなど、実際の製品金型で成形し、用途ごとに必要な性能を確認してきました。
現在ABSを使用している製品で、
- 石油由来原料の使用量を減らしたい
- 未利用資源を活用したい
- 環境配慮型製品を開発したい
- ABSをベースとしたままバイオマス化したい
といったご要望がございましたら、お問い合わせください。
VASUジャパンでは、小ロット25kgから試作用サンプルをご提供しています。