みなさんは、生分解性プラスチックについて、知っていますか?「環境に優しいイメージ」「土に還るプラスチック」といった、イメージを持っている方が、多くいらっしゃるのではないでしょうか。そこで今回は、生分解性プラスチックについて掘り下げて、徹底解説したいと思います。
生分解性プラスチックとは?
具体的な特徴の解説の前に「生分解性プラスチック」という名称について、掘り下げてみたいと思います。その名の通り「生分解性」と「プラスチック」という、二つの言葉から成り立っています。そもそも「生分解性」は、バクテリアなどによって、化合物が分解することを意味します。薬品などを使った化学的な分解ではなく、バクテリアなどによって、つまり自然界で分解することがポイントです。
次に「プラスチック」ですが、定義が曖昧な部分もありますが、一般的には、主に石油を原料とした、身の回りにある様々な形ある物、例えば、パソコンのマウス、テレビのリモコンなど、何らかの「形を作る」ことが可能な素材です。この形を作ることを、成形と呼んでいます。
話を整理すると「バクテリアなどによって、分解することが可能」な「何らかの形を作る素材」ということになります。先ほどの例を取り上げると、バクテリアなどによって、分解することが可能な「マウス」や「テレビのリモコン」を作ることができるということになります。
生分解性プラスチックの特徴
生分解性プラスチックの特徴は、前述のとおり、バクテリアなどによって、生分解することが可能な点です。後ほどメリットについて解説しますが、生分解が可能なことは、様々なメリットをもたらします。
生分解と聞くと、すぐに分解してしまいそうなイメージがありますが、あくまでも、バクテリアなどによる分解ですので、特定の環境下でなければ、生分解は進みません。例えば土の中はバクテリアにとって好環境ですので、分解が進みやすい環境です。また、堆肥を作るためのコンポストも、分解が進みやすい環境です。
そして、生分解性プラスチックが環境にもたらす最大の利点は、燃焼を伴わない処分が可能な点です。燃焼させると温室効果ガスが発生しますが、生分解のプロセスでは、最低限のCO2と水しか発生しません。このことが、地球環境に著しい変化がある近年、生分解性プラスチックが注目されている理由と言えます。
それならば、インターネットやテレビで見かけるゴミの問題について、例えば全ての身の回りの物が、生分解性プラスチックで作られていると、問題解決につながる気がしますが、実際には、生分解性プラスチックの普及には、課題があることも、後ほど解説します。
あまり知られていないと思いますが、生分解性ではない、つまり従来のプラスチックでも、数百年の期間があれば、バクテリアによって生分解します。一方、生分解性プラスチックと呼ばれている素材は、早ければ数ヶ月で生分解が可能です。
何から作られている?
一言で生分解性プラスチックと言っても、様々な原料から作られたものが、様々なメーカーから提供されています。例えば天然由来の素材として、セルロースや、とうもろこしやジャガイモのデンプンを原料にしたもの。その他にも、ポリ乳酸(PLA)と呼ばれる、植物由来のデンプンを化学的に合成したものや、同じく化学的に合成して作り出されるPBATなどがあります。
従来のプラスチックとの違い
「生分解性プラスチック」と「プラスチック」どちらもプラスチックという言葉が含まれており、両方とも何かを形作る原料ですが、最大の違いは、生分解する速度にあります。前述のとおり、従来のプラスチックも数百年という長い年月をかけると生分解しますが、生分解性プラスチックは、早ければ数ヶ月で分解することが可能です。
また、強度や耐久性などの、いわゆる物性面でも違いがあります。生分解性プラスチックは一般的に、従来のプラスチックに比べ、物性が劣ります。例えば落とした時に割れやすいことや、熱に強くないといった点が挙げられます。
どんな用途がある?
生分解性プラスチックは、早期に生分解が可能な特徴を生かした、様々な用途があります。
農業では、土壌の温度調整や、栽培している作物以外の植物の種子の飛来を防ぐ目的で、マルチシートが使われています。畑の土壌を覆う黒いシートを、みなさんも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。マルチシートは、作物を収穫したあと、回収する必要がありますが、生分解性にすることで、土の中に漉き込むことで処分が可能となり、労力の削減につながります。
また、作物や芝生などの養生や保護に、不織布が使われていますが、生分解性にすることで、同じく処分の労力軽減につながります。万が一風で飛んで行ったとしても、最終的には早期に生分解するので、環境に対しても優しいです。
その他、様々な用途で使われる袋も、生分解性にすることで、労力の軽減や環境の保護につながります。
漁業では、釣り糸や魚網などが挙げられます。生分解しやすい環境は、土の中やコンポストと解説しましたが、生分解性プラスチックの中には、海で分解が可能な素材もあります。従来のプラスチックで作られた釣り糸や魚網が海中をさまよい、海中の生物に様々な悪影響を与えていますが、一定期間で生分解することで、悪影響を最低限に抑えることが可能です。
生分解性プラスチックのメリット
さてここまで、生分解性プラスチックの特徴や用途を解説しましたが、ここからは、メリットとデメリットについて、解説したいと思います。
焼却処分が不要なのでCO2の発生が少ない
特徴でも述べましたが、生分解性プラスチックは、焼却を伴わない処分が可能です。焼却しないので、温室効果ガスの発生を抑えることが可能です。地球温暖化の原因と言われている温室効果ガスの発生を抑制することで、地球環境の保護につながります。
ゴミ問題の抑制
自然環境化に放置されても、生分解することが可能です。条件によって分解速度は異なりますが、従来のプラスチックより、比べ物にならないほど早く生分解が可能で、自然環境化に放置されたゴミ問題の解決につながります。ポイ捨てや不法投棄、風などで飛来したゴミの問題解決につながります。 また、国土が広かったり、ゴミを適切に回収できない地域では、燃焼以外の処分方法として活用可能です。
労力の軽減につながる
生分解性プラスチックというと、自然環境にやさしい素材というイメージが先行していますが、実用的なメリットがあります。それは、労力の軽減につながるという点です。例えば、食品の残渣を堆肥化させる際、残渣を入れている一般的なポリエチレン製の袋は、分別する必要がありますが、生分解性の袋の場合、そのまま一緒に堆肥化させることが可能です。
また、前述の農業用のマルチシートも、土の中に漉き込むことで処分可能なので、回収してゴミとして引き取ってもらう手間が省けます。回収の手間が省けるという点では、生分解性の不織布を養生などに使う場合も同様です。林業などで使われるマーキング用のテープも、生分解性にすることで、回収の手間が省けます。労力の軽減につながるということは、人件費の削減にもつながります。
生分解性プラスチックのデメリット
メリットの解説をしましたが、良いことばかりではありません。今後の技術革新で解決することを願いますが、デメリットもあります。
従来のプラスチックに対してコストが高い
従来のプラスチックが普及した理由として、コストが安いことが挙げられます。現状、生分解性プラスチックは、従来のプラスチックと比較して、3倍程度コストが高いです。但し、ニワトリが先か、卵が先かの議論と同じで、生分解性プラスチックも流通量が増えれば増えるほど、コストは下がっていきます。一度に製造する量、一度に輸送する量が増えれば、色々とコストダウンが可能です。また、様々な産業で、グリーンエネルギーが取り入れられている中、原油自体の輸入量が減り、近い将来コストは下がると考えられます。
従来のプラスチックと物性が異なる
あくまでも「従来のプラスチックと比較して」ではありますが、物性が異なります。物性と言っても、引っ張りに対する強度、衝撃に対する強度、伸び率、耐熱性など様々です。各メーカーの研究開発によって、技術革新は進んでおり、将来的には従来のプラスチックと同等になると考えられます。
一般的に物性は、各種成形品について、各メーカーが物性試験の規定を定めていますが、これらは従来のプラスチックを基準に作られています。これはバイオプラスチックを提供するメーカーとしての願いですが、実用に支障のないレベルで、生分解性プラスチックに応じた規定が定められることを願っています。
従来のプラスチックと成形条件が異なる
従来のプラスチックとの「違い」程度ではありますが、成形時の条件が異なる点が挙げられます。例えば50年間同じ素材で同じ物を成形し続けている工場で、新たに生分解性プラスチックを原料に成形する場合、温度や圧力など、様々な設定項目で条件が異なります。設定を変更すれば大きな問題はありませんが、従来のプラスチックと全く同じ条件ではないことに、難色を示される場合があります。
また、生分解性プラスチックは一般的に、成形前に樹脂の事前乾燥が必要です。これは、樹脂に含まれる水分を除去するためです。水分が残ったまま成形すると、成形時の熱で水分が気化し、成形に悪影響を与えます。事前乾燥には専用の設備が必要ですので、従来、事前乾燥を必要としない樹脂を使って成形をしていた場合、新たに設備投資が必要となります。
生分解性プラスチックの今後
生分解性プラスチックは、2024年時点では、まだまだ普及しているとは言えません。しかし、消費者の認知増大、各メーカーの技術革新、流通量の増加に伴い、使いやすい物性、使いやすい価格になると考えることができます。
様々な産業や分野への広がり
現在、農業や漁業を中心に、活用が広がりつつある生分解性プラスチックですが、物性面、価格面の改善によって、様々な分野に広がると考えられます。とは言え、何でもかんでも生分解性プラスチックということではなく「生分解すること」にメリットがある用途で広がると考えられます。例えばレジ袋、コンビニなどでお弁当を買うと無料で配られているカトラリーなど、自然環境下に放置される可能性のあるものです。また、アウトドア用品などでも、生分解を活かした活用が可能です。
徐々に導入しやすいコストに
先にも述べましたが、流通量が増えることで、コストが下がってくると考えられます。従来のプラスチックが安価なのは、流通量がとてつもなく多いことが挙げられます。昨今、グリーンエネルギーへの移行が進む中、原油の輸入量が将来的に減少した場合、逆にプラスチックが高くなる可能性もあり、生分解性プラスチックとの価格差は縮小すると考えられます。
生分解性プラスチックのご提案
VASUジャパンでは、小規模なスモールスタートといった、いわゆるお試しを強力にサポートいたします。試作用の樹脂は25kgからご提供可能。試作結果に応じて、成形条件を含め、技術サポートもさせていただきます。
また、「こういう物性が欲しい」「この物性を少し高めたい」など、カスタマイズのご相談も、可能な限りご対応しています。