メールマガジン

Vol. 30 射出成形向けバイオマスABS

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バイオマスABSを使った化粧品容器
バイオマスABSを使った化粧品容器

みなさんこんにちは。この記事を書いている今、2025年の参院選投票日直前で、様々なメディアで各党の主張が伝えられています。少子化問題や景気の低迷など、様々な問題に対しての対策が報じられていますが、数年後には気候変動に対する抜本的な対策が争点になるのではと感じています。

2025年の夏、6月ごろから猛暑となり梅雨に入っても雨があまり降らず、空梅雨かと思えばまとまって大雨が降りました。テレビのニュースでは高温や大雨による農作物の被害が伝えられていますが、このまま対策せず放置すれば、食糧危機に直面する時代が来るのではと感じています。

今回はVASUジャパンがご提案している、バイオマスABSについて解説したいと思います。バイオマスABSは石油由来のABSにバイオマス分をミックスすることによって、地球温暖化の原因の一部と言われているCO2排出量を抑えることができるバイオマスプラスチックです。

そもそもバイオマスとは?

近年「バイオマス」というキーワードを見聞きする機会が増えたと感じています。バイオマス(Biomass)とは、生物資源を表すバイオ(Bio)と量を表すマス(mass)からなる言葉で、再生可能であり、石油などの化石資源を除く、生物由来の有機資源を意味する言葉です。

これまでに何度か石油が枯渇すると聞いたことがあると思います。その通りで、地下に眠っている石油を採掘し続けていると、いずれ枯渇すると言われています。一方でバイオマス、平たく言えば植物は、太陽光と二酸化炭素と水があれば持続的に成長しますので、バイオマス = 再生可能な資源として注目されています。それではバイオマスはどのようにして使われているかですが、石油の代わりに燃料として使われています。

日本国内でもバイオマス燃料として、石油関連企業、バイオ関連企業、自動車関連企業などが研究開発を進めています。一方で、我々バイオマスプラスチック業界でも、バイオマスを燃料ではなく素材の一部として活用しています。バイオマスは再生可能な資源と述べましたが、後ほど説明するカーボンニュートラルという恩恵を受けることも可能です。

SDGsのイメージ

ABSとは?

我々の身の回りは、様々なプラスチック製品で溢れています。例を挙げるとキリがないほどプラスチックに依存していると言っても過言ではありません。食品包装、レジ袋、スマートフォン、テレビ、パソコン、自動車、家電製品など、ありとあらゆる部分でプラスチック製品の恩恵を受けています。

一口にプラスチックと言っても、用途に応じて様々な種類があります。一般消費者でも割と認知度の高いのはPP(ポリプロピレン)や、PE(ポリエチレン)だと思いますが、それ以外にも、ABS(エービーエス)、PA(ポリアミド)、PC(ポリカーボネート)など、様々な種類が用途に応じて使い分けられています。

中でも今回のテーマであるABSについて、少し深掘りしてみたいと思います。ABSはAcrylonitrile(アクリロニトリル)、Butadiene(ブタジエン)、Styrene(スチレン)の3つの成分を組み合わせたプラスチックです。1940年代にアメリカで開発され、Butadiene(ブタジエン)のゴム成分による衝撃吸収、Acrylonitrile(アクリロニトリル)とStyrene(スチレン)による強度と剛性によって、高い衝撃強度が特徴のプラスチックです。そのため、家電製品や自動車部品などで広く採用されています。

身の回りのABSで作られた物

ABSは耐衝撃性に加え、耐熱性もあり、光沢がありますので、家電製品や自動車部品以外にも、私たちの身の回りの様々な物に使われています。

家電製品

テレビ、冷蔵庫、洗濯機、プリンターなどの外装

自動車部品

内装部品、外装部品

玩具

ブロック、フィギュア、模型など

文房具

筆箱、ファイル、ボールペンなど

日用品

歯ブラシ、各種容器など

まさに、例を挙げればキリがないほど、私たちの身の回りで使われていることがわかると思います。

バイオマスABSとは?

さて、ここまでバイオマスやABSについて触れてきました。ここではバイオマスとABSを組み合わせた、バイオマスABSについて触れたいと思います。冒頭でも述べましたが、バイオマスABSは、石油由来のABSにバイオマス分をミックスすることによって、カーボンニュートラルの働きによって、地球温暖化の原因の一部とされているCO2排出量の削減に貢献できます。

しかし、バイオマスABSの実現には、ハードルがあります。前述の通り、ABSはそもそも耐衝撃性に優れる性質を持っているので、バイオマス化により、耐衝撃性がダウンしてしまうと、そもそもの目的を果たすことができない点です。一般的にバイオマス化するには、石油由来のABSとバイオマス分をミックスすることによって実現しますが、ミックスすることによって耐衝撃性がダウンしてしまうというハードルがあります。

このことはABSに限らず、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)など、様々な石油由来プラスチックをバイオマス化する時も同様です。VASUジャパンがご提案するバイオマスABSは、そういったハードルを取り除き、耐衝撃性を極限にまで高めるために、バイオマス分に牡蠣殻パウダー(シェルパウダー)をミックスしています。

これまでに、ヘッドフォン内部パーツ、換気扇カバー、ポータブルラジオのフロントパネルなど、様々な用途で試作を行い、その全てで必要とされる耐衝撃性を満たしています。誤解なきように付け加えると、石油由来ABSよりも耐衝撃性が優れているということではなく、実際に成形品を作成し、その製品に求められる物理的性能をクリアしたということです。 市場にはPP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)のバイオマスプラスチックが多い中、バイオマスABSは、バイオマスプラスチックの活用の幅を大きく広げることを可能にします。

バイオマスABSを使ったラジオのパネル
バイオマスABSを使ったラジオのパネル

カーボンニュートラルとは?

ここまでに何回か登場したカーボンニュートラルというキーワードについて解説したいと思います。詳しくは以前のメールマガジンのアーカイブでも解説していますので、よかったらそちらもご覧ください。

Vol. 4 カーボンニュートラルってなに?

テレビやインターネットでも見聞きすることが増えたカーボンニュートラルですが、カーボン「炭素」を、ニュートラルにしよう、つまり、発生したCO2をプラスマイナスゼロにしようという取り組みです。具体的には、プラスチックに限らず、燃料を含め、排出されたCO2と同量のCO2を、森林などによる光合成の吸収によって、プラスマイナスゼロにするイメージです。「植物はずっと存在しているので、別にカーボンニュートラルと言わなくても、いままでカーボンニュートラルになっていたのでは?」となりそうですが、ポイントは、プラスチックにバイオマス分をミックスすることです。バイオマス素材は再生可能資源であって、CO2の吸収に寄与します。わかりやすく言えば、石油由来プラスチックの原料である石油は、光合成をしてCO2を吸収しませんが、バイオマスプラスチックの原料であるバイオマス素材は、成長の段階で光合成などによってCO2を吸収します。これによって、発生したCO2をプラスマイナスゼロ = ニュートラルといったイメージです。

カーボンニュートラル

スモールスタートでお試し

バイオマスプラスチックの導入の障壁となるのは、やはりまだまだ新しい素材で、様々な成形における懸念があることです。

VASUジャパンではそんな障壁を取り払うべく、少量25 kgから試作用のサンプルをご提供しています。先ずは試作を実施して、問題なく製造できることがわかれば、来る日に備えて準備が整います。ウェブサイトのお問い合わせフォームからサンプルはお申し込みください。未来のプラスチック素材の選択肢として、ぜひ一度お試しください。